動物病院税務調査注意点まとめ
税務調査の対応には神経を使いますよね。
税務調査が入ると聞くと何かしでかしたのかとか、一見悪者のような錯覚に陥る経営者もいらっしゃいますが、税務調査はどの企業にも入るものなので、税務調査の連絡が入ったからといってそのように考えなくても大丈夫です。
これまで色々な業種の税務調査の立会いをさせて頂きましたが、売上、経費、給与関連の調査など基本的には数日間を要します。
動物病院の税務顧問を数多く担当し、多くの税務調査に立会うことでわかった動物病院特有の税務調査のポイントを記載して頂きますので、常日頃から意識して頂き指摘のない税務調査を目指していただければと思います。
なお税務調査は
- 黒字企業
- 前年と比較し急激な業績変動がある(売上や利益など)
- 交際費の多い企業
- 法人設立丸3年経過
のような事業者が選定されやすい傾向にあります。
動物病院は比較的利益の出る黒字企業で税務調査が多いことからしっかりとした体制を整えていきましょう。
動物病院税務調査の流れ
税務調査が行われる場合には、通常、事前に電話連絡があり税務調整の日程を決めることとなります。
税理士が税務申告(税務代理)をしている場合には直接動物病院に連絡が来るわけではなく税理士に連絡が入り、税理士が間に入り日程調整することになります。
税務調査では、過去の税務申告書、総勘定元帳、通帳、領収書、給与明細などの資料を確認されるため、事前に不足資料がないか確認しておく必要があります。
税務調査は、基本的には2日~3日間病院に来て調査が行われます。
基本的な税務調査のスケジュール
1日目 | AM |
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PM |
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2日目 3日目 | AM PM |
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税務調査が終わると、その後も指摘事項の内容の確認などで何度か税務署と電話や資料郵送などのやりとりをします。
最終的な着地点が見えた段階で、是認(特段指摘なし)、修正申告の提出が必要ということになり対応していくことになります。
最初の代表者である院長を交えての話し合いでは税務署側は、警戒されていては話しが聞き出せないので、院長の出身地や家族構成、趣味などで警戒感を和らげつつ、院長の職歴や開業した後についての話し、現状の動物病院の運営について確認してきます。
警戒感を和らげると記載しましたが、税務署側はしっかり意図をもって聞いてくるので、例えば、趣味が旅行で昨年北海道に家族旅行してきた。と話したりするとその後誤ってその旅行代金が経費として処理されていると弁解のしようもないので話し好きな方は注意しましょう。
話し合いで税務署側が特に確認したいのは、現金売上の多い業種であるため飼い主から受領したお金をどのように集計し、また現金をどのようにして保管しているか、場合によってはカルテをランダムに手に取って売上としてしっかり処理されているかの確認がされます。
また給与を払っている人は実際に働いている人かなどを積極的に確認してきます。
診療日であれば院長は診療優先しなければいけないので、まとまった時間が取れない場合には診療の合間での院長との話し合いと、資料の確認を平行して進めていくケースもあります。
税務調査の最後には税務署側の指摘事項などの確認で1時間程度話し合いがなされますが、特段指摘がなくとも一旦税務署の上司へ報告しなければならないため、後日指摘なしという連絡が入ることになります。
何かしらの指摘がある場合で、その場で解決しない場合には後日税務署側と税理士側(動物病院の院長の見解を踏まえてた)とで修正事項を確認していき、最終的な修正金額を確定していく流れとなります。
人間の処理することなので何もかもが完璧というのは難しい部分もありますが金額に影響のある高額な金額や動物病院特有の誤りやすい事項(後のブログに記載)については極力指摘されないようにご留意頂ければと思います。
動物病院税務調査1(霊園紹介料や仕入業者からの謝礼)
動物病院の税務調査で特に指摘の多い項目が霊園紹介料や仕入れ業者からの謝礼金の収入漏れとなります。
これらは通帳を介さず現金でもらうケースが多いため、動物病院の収入に含めるのを忘れがちの項目になりますが、税務上は収入として申告しなければなりません。
現金でもらう場合、いつ、誰から、いくらをもらったかをその都度メモなどしておかないと、数カ月、数年前のことを思い出すのはかなり難しいと思います。
税務署から指摘を受ける前に事前にメモを取り漏れのないよう心がけましょう。
また獣医師会に加入されている先生で集合注射の収入が事業とは別の個人口座に入金がされており、申告し忘れているケースも見受けられますので振込先を事業用の通帳に入金するようにしておかれた方が漏れなく申告できると思います(特に法人成りをされた病院に多く、振込先が個人名義のままで忘れるケースが多いように思われます。)。
動物病院税務調査2(売上、売掛金)
動物病院ではまだまだ現金商売が大半です(都内では売上の半分がクレジット決済という病院も増えてきていますが)。
そのため、日々の現金売上をしっかりと収入にすることはもちろん、クレジット決済をしている場合には、銀行に入金される金額ではなく、カード手数料を引かれる前の金額で売上処理をしないと消費税の計算を誤ることになります。
カード手数料が引かれる前の金額を収入とし、カード手数料を経費として処理することが必要となります。
療法食などで業者から手数料を収受するケースもあり、毎月定期的に入金があれば把握しやすいのですが、業者によっては一定金額に達しないと動物病院へ入金されないところもありますので、決算時点においてまだ入金のない金額についてもしっかりと収入として申告するよう心がけましょう。
動物病院税務調査3(現金管理)
動物病院は売上を現金で収受することが多いため、現金管理が徹底されているとかなり印象がよいと考えられます。
過去の税務調査では、お昼の休診時間に、レジ現金を実際に数えさせ、動物病院で認識している帳簿上の現金残高と一致しているかどうかを確認するケースもあります。
その際、帳簿上の現金残高と実際のレジ現金の残高が一致していれば現金管理が徹底されているという事で、現金関連については深く追及されないこともありました。
また、決算日(個人であれは12月31日、法人であれば事業年度最終日)の現金残高は申告書に金額が記載されるため、売上規模からみて多額の金額がある場合には現金管理がされていないとどうしても見えることから、決算日の前には現金を金融機関に預けるなどし、現金残高を適正な水準で申告されるのも印象としては良いのではないかと思います。
動物病院税務調査4(棚卸し)
棚卸しとは、簡単には決算日時点において使用していない薬品や医療用消耗品費を金額で算出することをいいます。
1年に1回は最低棚卸しが必須となりますが、この棚卸しは結構時間も取られ大変な作業だと思います。
ただ、一生懸命時間を割いて棚卸しをしてもそれが誤ったやり方や棚卸しの理解が不十分だからこそ指摘を受けてしまう部分もあるため、この際しっかりとした棚卸しを実施しましょう。
誤りの多いケース1(預け在庫)
予防薬の仕入れでは、1~3月頃にキャンペーンを行っている業者も多く、大半の動物病院はそこで大量の仕入れを行う傾向にあります。
大量の仕入れをしても、院内に置く場所がないので、業者が一時的に保管しているいわゆる「預け在庫」がある場合には、これも棚卸しとしてカウントしなければなりません。
院内にないため、棚卸しに含めていない動物病院も多く見受けられるため、預け在庫もしっかりと棚卸しに含んで申告しましょう。
また、業者の請求書を見ると期末直前に仕入れた(預け在庫ではなく、実際に動物病院内に納品されたもの)ものを容易に確認することができます。
期末直前に大量に仕入れたものが、棚卸しに記載されていない場合には棚卸しの漏れではと指摘を受けるケースもあるため、漏れのないように心がけましょう。
誤りの多いケース2(輸入品)
海外薬は国内の薬よりも安価なものがあり、また日本では販売されていない薬もあるため、これらを海外から輸入される動物病院も多く見受けられます。この輸入品についても、決算前に発注、資金決済した場合には、決算日にまだ商品が到着していないときでも棚卸しに含める必要がありますのでご留意ください。
誤りの多いケース3(数量の数え方)
動物病院の古くからの風習なのか、開業された先生に聞くと、前職の動物病院では、箱を開けたらそれは棚卸しにカウントしないという方が多く見受けられます。
確かに、封を開けた箱の中の細かな数を1つ1つ数えるとなるとかなりの時間を要することになりますが、税務上は正確な個数での申告が必要となります。
税務申告のために1つ1つ時間をかけて数えなければならないのですが、私個人的な見解では、大きく数値が乖離しないのであれば目分量(箱の1/3程度残っている場合には0.33個など)レベルでも全くカウントしないより「0」よりはましだと思います。
また、単価の高い整形で使用するプレートや吸収糸、免疫抑制剤などはしっかり数えるなどの対応は必要と思いますので院長や顧問税理士に相談の上でご検討頂ければと思います。
誤りの多いケース4(単価)
単価の算出には色々な計算方法がありますが、多くの動物病院では最終仕入原価法(もっとも新しく仕入れた単価)を採用しているのではないでしょうか。
動物病院の棚卸しは数も多く、1つ1つ単価を入れなおすのは大変だとは思いますが、めんどうだからといって過去の単価をそのまま引用しないようにしましょう。
動物病院税務調査5(プライベート経費の混在)
動物病院に限らずどの業種でも問題となるものです。経営者は少しでも経費を増やして税金を抑えたいという気持ちはわからなくもないですが、動物病院と関係のない支出は経費としては処理できません。
飲食代はもちろんですが、動物病院で使用している車両費(自動車税、自動車保険、ガソリン代など)や携帯電話料金などもプライベートとして使用している部分がある限り全額は経費とはなりません。その際には合理的にプライベート部分と病院部分に分けて処理する必要がありますのでご留意ください。
動物病院税務調査6(給与)
動物病院の経費は売上原価(仕入れ、外注費)と並び人件費が高額となります。
高額な経費は修正があると税金もたくさん徴収できるため、人件費は細かく調査される項目となります。
税務署は事前にHPなどで、誰が働いているのか、何人いるかなど調べて税務調査を行います。
HPには載っていない人に給与が支払われていないかや、タイムカードで出勤の形跡があるかなど確認します。
担当先の動物病院院長からの話しで又聞きではありますが、知り合いの動物病院で実際には働いていない女性(過去に勤務していたが退職)に架空で給与を払ったように見せかけたことで問題が生じました。
働いていない女性の夫に税務署から連絡がきて発覚したそうで、退職した妻は収入がないため夫において税金が安くなる「配偶者控除」を適用して個人の確定申告をしたそうなのですが、後日税務署から妻には収入があるから「配偶者控除」は適用できないと連絡がきたそうです。
架空人件費は、その使われた家族にも非常に迷惑のかかる行為で、絶対にやってはいけません。
税務職員が従業員に聞き込みをすれば確実にばれる項目ですのでしっかりした申告をしましょう。
みなさんは、さすがに行っていないですよね!!
動物病院税務調査7(外注費と給与の扱い)
代診の先生に来てもらうケースで、外注費として支払うのか、あるいは給与として支払うかで特に消費税の計算が大きく変わってきます。
外注費は消費税を含むのに対し、給与には消費税は発生しないため、消費税の納付を少しでも減らしたい場合には外注費として処理することになります。
しかし、実際問題、外注費か給与なのかは選択できるものではなく、その実態に応じて総合的に判断する必要がありその判断が非常に難しい部分です。
これをしたから外注費になるとかではないため、税理士でも非常に難しい論点になります。
簡単に説明すると給与は経営者との間に雇用契約があり、時間が拘束され、経営者の指示で動くと給与に該当する可能性が高くなります。
一方、外注費は役務提供(≒働くこと)が時間的な拘束を受けず、その人が自己の責任においてその役務提供を遂行し、それに対して請求書を発行する。医療ミスが生じた場合にはその者本人が責任を受ける。という内容です。
(※簡易的な記載にとどめておきますが、本来はもっと複雑で奥が深い論点です。)
外注費として年1,000万円(うち消費税740,740円)支払っている動物病院があったとすると、それが給与として指摘されると1年間で74万円(プラス加算税などのペナルティーが発生)の納付漏れ、これが3~5年分過去にさかのぼって修正されるととても高額になってきます。
給与や外注費は税務調査で指摘されると金額が大きくなる項目ですのでしっかりと顧問税理士に相談しておきましょう。
動物病院税務調査8(印紙)
近年関東信越国税局(茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、長野)と東京国税局(東京、神奈川、千葉、山梨)については、税務署ないしは国税局より回答文書が送られ、印紙の貼付状況についてのお尋ね文書が届く動物病院が多発しています。
そのお尋ね文書のほとんどが領収書(レシートを含む。以下同じ)の印紙貼付漏れによる指摘で、印紙税の仕組みを知っていないと税務署から指摘を受けることとなりますので領収書関連の印紙税の取り扱いについてご確認頂けばと思います。
印税税法では「売上代金に係る金銭の受取書」という記載がいわゆる領収書に該当し、印紙を貼付しなければなりません。ただし、全ての領収書に印紙が必要ではなく、クレジットカード決済(実際に現金を受領していない)や受領金額が5万円未満であるものについては印紙は貼付不要とされていますので、ある程度高額な領収書を渡す際には気を付ける必要があります。
印紙税は動物病院の経営形態(個人経営か会社経営か)で取り扱いが異なることになります。
個人経営
個人経営の場合には、診療行為に係る領収書については印紙税法では非課税扱い(印紙を貼付しなくてもよい)になると考えられます。
一方診療行為以外の項目、例えばペットホテルや、フード販売などは印紙税法の非課税に該当しないのですがこれらで一度に5万円を超えるケースは少ないと考えられますが、もし5万円を超えるのであれば印紙の貼付を忘れないようご留意ください。
会社経営
会社経営の場合には、個人経営と違い全ての項目に対する領収書が印紙税の対象に該当するものと考えられます。
会社経営の場合には売上も高く、5万円の受領も多くなると思いますので多くの印紙を購入する必要があります。
動物病院に多く導入されているとあるレセプト会社では印紙の貼付が不要な明細書を印刷するシステムもあるのでレセプト会社への確認や印紙の貼付については顧問税理士にご相談頂ければと思います。